6/24/2010

Red Hat Summit 2010 まとめ

Red Hat Summit 2010の基調講演の内容をまとめておく。

Jim Whitehurst氏 (Chairman and CEO) が登場。

Red Hatのミッションは、「よりよい技術をオープンソースのやり方で提供することで、コミュニティ、パートナー、コントリビュータ、顧客などの触媒となること」だ。みなさんにはこのすばらしい機会に、クラウドの方向性、オープンソースの方向性などを議論いただき、さまざまなフィードバックをいただけたらありがたい。

●基本的なパラダイムシフト
いま、技術に大きな変化が起きている。HTML5、モバイルコンピューティング、コラボレーション、そうした変化の中でも最大のものがクラウドだ。根本的なパラダイムシフトが起きている。いま起きている事は、機能の向上とコストの低下だ。ムーアの法則のとおりCPUは高速化すると同時にCPUサイクルあたりのコストは下がり、磁気ディスクは大容量化と同時に低価格化し、ファイバケーブルも容量増大と低価格化が続く。ではなぜ世の中のCIOたちは「俺はこれまでずっと新機能を提供しながらコストを下げ続けた!俺はヒーローだ!」と言わないのか?なぜなら、現実はこれらの法則とはものすごく違うからだ。実際のIT予算は増大するし、要求される企業ITの機能のレベルも常に最高のものを求められる。現在、その膨れあがった企業のIT予算は、世界全体で約1.3兆ドルと言われている。

問題はどこにあるのか?ユーザの期待するITのレベルが上がり続けているのだ。20年前、平均的なユーザが最良のIT体験をしていたのは会社のオフィスだった。いまはそれが家庭になったのだ。iTunes、Google、Twitter、Facebookなどがそれだ。企業ITのユーザは、現在、家庭と同じようなIT体験をオフィスに期待している。あるCIOは自分の最大の相手はGoogleだという。

●いまITがイノベーションを提供できない3つの理由
先日、私はCMOとCIOを呼んで、我が社のマーケティング部門にワールドワイドで情報共有をやってうまくコラボレーションさせられないか?と訪ねた。その後すぐに彼らは専門のプロジェクトチームを立ち上げて議論をし、数週間後に案を作って私のところに持ってきた。実現予定の機能のリストと一緒に、コラボレーション基盤の構築に9ヶ月、1,400万ドルかかる、ということだった。私は激怒した。一体、何を言っているのだ? 私には高校生の娘がいるが、学校の理科のプロジェクトでGoogle Docsを使って情報共有しているし、コラボレーションを実現している。しかも、無料で。これは本当の話だ。Google Docsは無料、Facebookも無料、Twitterも無料。なぜ企業のITはこのレベルに達しないのか?なぜITはイノベーションを提供できなくなってしまったのか?

それには3つの理由がある。

第一に、ソフトウェア会社のビジネスモデルは根本から崩壊してしまったのだ。まず、ハードウェアが速くなるよりも早く、ソフトウェアが遅くなってしまった。数年前に行われたRandall Kennedy氏の有名な研究があるのだが、2007年当時の一般的なスペックのハードウェアで動かしたMicrosoft Office 2007と、2000年当時の一般的なスペックのハードウェアで動かしたMicrosoft Office 2000で、基本的な操作の速度を比較したところ、Office 2007のほうが40%も遅いという結果になったそうだ。何かがおかしいと思わないか?

また別の数字を示そう。ある調査によると、20%のユーザが80%の機能を使っているが、80%のユーザは全体の機能の20%しか利用していない。また別の調査は、我々がCIOを対象として行ったもので、3週間に1回以上、望みもしないソフトウェアのアップグレードを行ったことがあるか?という質問に、全員がYesと回答した。アップグレードしないと、ベンダがサポートしないというのが理由だ。ユーザが望みもしない機能をつけてソフトウェアのライセンスを売る、というビジネスモデルは崩壊したのだ。
ユーザをロックインするソフトウェアライセンス販売モデルは、普通じゃなくなった。Red HatはRed Hat Enterprise Linuxを販売してから8年になるが、これまで一度も価格を変更したことはない。世界の企業は、年間約2,000億ドルをソフトウェアに使っている。

第二に、複雑さだ。新機能を追加するためのシステム開発コストは、膨大だ。遠い昔、私がボストンコンサルティンググループにいた頃、顧客IT戦略のプロジェクトに新しく関わることになった。システム設計を担当しているエンジニアに、現行ITシステムのアーキテクチャ仕様がわかるドキュメントを持ってきてくれないか、と言ったら、750ページのドキュメントを渡された。このように、たいてのITシステムは複雑だ。何年もの間、何回も投資をして、継ぎ接ぎで修正をかけて運用してきたITシステムは、ものすごく複雑になるのだ。

第三に、ITプロジェクトの失敗だ。現在、約3,000億ドルが新機能を追加するプロジェクトに使われている。しかし、半分以上のプロジェクトは失敗している。仕様策定、開発に十数ヶ月もかけて行うような大規模なプロジェクトでは、できあがる頃に起きている要求の変化に耐えられない。何年もかけてバージョン1からバージョン2にするようなITプロジェクトがうまくいかなくなったのだ。2年先に何が起こるかを的確に言い当てられるCIOは、ほとんどいないはずだ。要求仕様は、時が経てば、すぐに変わっていくものだ。

WTF? – What’s the Fix? (What The F*ckとかけている) じゃあどうすべきか?
(ハーバードビジネスレビュー誌のDavid Upton, Ph.D. のビデオ紹介)
・顧客中心のビジネスモデル
・技術の可能性を提供するようなモダンなアーキテクチャ
・イノベーションを提供する新しいやりかたを採用する

いま、誰もがクラウドに関心がある。クラウドなら、ソフトウェアではなく機能を購入できる。ビジネスバリューに対してお金を払うことができるのだ。クラウドはモダンなモジュール構造を備えることができ、テスト、生産を迅速に行う手段を提供してくれる。
Red Hatはサブスクリプションモデルを採用している。機能ではなく、提供するビジネスバリューに対してお金をいただいている。我々は不必要な機能は開発しないし、新バージョンがリリースされても必要以上に宣伝はしない。そんなことをしてもお金にならないからだ。顧客が必要ならアップグレードして新機能を利用するのも自由だし、安定して現在のシステムを使い続けるのも自由だ。

(ハーバード医大 CIOの John D. Halamka, MD, MSのビデオを紹介)

ここでPaul Cormier氏 (Executive VP of Product and Technology) が登場。

まず昨年お話しした内容をおさらいしよう。

●ロックイン2.0
80年代のアーキテクチャを振り返ってみれば、DEC、Sun Microsystemsなど、それぞれのベンダが独自のスタックを持っていた。ベアメタル、OS、アプリケーション。顧客に対する強いロックインが起きていた。
これに対してオープンソースは、OSのロックイン、ミドルウェアのロックインを解いていき、いまオープンソースによる完全なスタックが完成するところまできている。そして今度はクラウドコンピューティングの景色を変えるときだ。
OracleはSunを買収し、ベアメタルからミドルウェアまでを統合した完璧なプラットフォームを提供すると言っている。まるで80年代に戻ったようだ。

MicrosoftはWindows Azureでオンプレミスとクラウドのどちらも、全てのレイヤを同じようにWindowsで統合しようとしている。これは80年代—(マイナス)ハードウェアだ。

VMwareとSUSE Linuxが先週、提携を発表したが、SUSEは特定のハイパーバイザだけをサポートするという。これもオープンソースの私に言わせれば、まるで80年代のやり方だ。

80年代のロックインがバージョン1だとしたら、これはまるでロックイン2.0だ。
一方、我々は過去9年間、顧客に選択肢を提供することに努力してきた。Red Hat Enterprise Linuxはプライベートクラウドのために最適化をしてきた。Red Hat Virtualizationだけでなく、Microsoft Hyper-VやVMwareのゲストOSとしてもリソース管理、セキュリティ管理、スケーラビリティなどが最適に動作するように最適化してきた。本当の選択肢を提供するためだ。

(Dennis Foster, VP of Technology Planning and Engineering, Marriott Internationalのビデオ紹介)

●Red Hat Cloud Foundation – Edition One の発表
次世代のミドルウェア製品は、POJO、JEE、Spring、Ruby、Groovy、PHPなどを1つのスタックで提供する。これはアプリケーションのライフサイクルをサポートする点でとても重要なことだ。クラウドコンピューティングとは、リソースをベアメタルからプライベートクラウド、あるいはパブリッククラウドへとオフプレミスにすることだ。このときアプリケーションからみてスタックの一貫性が求められる。いま、JBossをこうした一貫性のある基盤にするべく作業を進めている。

(Brian Clark, Chief Software Architect, NYSE Euronextのビデオ紹介)

次に、Red Hatの仮想化関連製品群をみてみよう。Red HatはKVMを使って、NTT、IBM、Amazon Web Serviceと共に相互運用性に関する共同研究をしてきた。今日、統合VDI製品のリリースを発表する。

(Riboh Ohno, Business Network Service Division, NTT Communicationsのビデオを紹介)

今日、本当のクラウドを発表しよう。Red Hat Cloud Foundations - Edition Oneだ。

これは顧客のためにクラウドを提供するサービスプロバイダに、ツール、サービス、コンサルティング、トレーニング、リファレンスガイドなどを提供し、エンタープライズクラスのクラウドを構築してもらうためのものだ。
顧客はプライベートクラウドでの仮想化レイヤに、KVMの代わりにVMwareやHyper-Vを選び、その上にRHELを載せることもできるし、パブリッククラウドでAmazon クラウドを選び、OSにRHELとJBossを載せることも、IBMのクラウドでRHELの上にIBMのミドルウェアを載せることもできる。顧客は選択肢が得られる。

(Maria Azua, VP of Cloud Computing Enablement, IBMのビデオ紹介)

まとめよう。Red Hatはプライベート、パブリッククラウドのための包括的なソリューションと選択肢を提供する。そしてロックインを解除していくのだ。

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