8/06/2010

ラーメン屋とクラウドコンピューティング

日本にはラーメンという優れた食文化があります。日本で最初にラーメンを食べたのは水戸黄門だ、とか、ラーメンの起源は明治時代に横浜や神戸の中華街で出てきた南京そばにある、とか諸説ありますが、いずれにせよ、最初のラーメンの麺は自家製で、手延べや手打ちだったそうです。そのうち繁盛してきて手打ちでは対応できなくなり、均一な麺の生産と効率化を求めて製麺機が登場しました。収益=単価×客数。ラーメンひとすじで勝負するなら、単価は期待できませんので、客数を増やすしかありません。

さて、日本のIT業界を見てみると、ネットベンチャー、ソフトウェア開発、システムインテグレータ(SIer)など様々な業種業態がありますが、「収益=単価×客数」でいえば「単価」が大きく「客数」が少ない商売が多かったのではないでしょうか。先日は内閣官房国家戦略室が、国民IDシステムの開発コストは6100億円、と発表していました。このようなプロジェクトが進められることになれば、入札を経てどこかの大手ITゼネコンがシステム開発を受注し、下請け、孫請け、又孫請け、などを含めて何千億円というシステム開発を、何年もかけてシコシコとやっていくことになります。その後、そのシステムの保守という名目で、年間何百億円がシステム運用を受託した会社に流れることになります。これまで、こうやってやってきたのです。まるで超高級フレンチレストラン、というよりオーダーメイドスーツやビスポークシューズの仕立屋さんでしょうか。

一方、クラウドコンピューティングの商売は、「単価」が小さく、「客数」が多い商売です。クラウドコンピューティングで供給されるサービスでは、まるで電気料金や携帯電話料金のように、サービスやリソースを使用した時間・回数・量に対していくら、という商売をやっています。例えば、今日現在、Amazon Web Service EC2のNorth VirginiaデータセンタにあるWindowsの一番小さい仮想マシンを1時間利用すると、$0.12かかります。日本円にして、約10円です。1万人が同時に使ったとしても、1時間でたったの10万円です。これって本当に儲かっているのでしょうか? ある試算によると、Amazon Web Service EC2は、1時間に$25,000(約212万円)以上の売上があるとのこと。数字の信憑性はともかく、Amazon Web Service EC2というのは、「単価」がめちゃくちゃ小さくて、「客数」がとてつもなく多い商売だということはわかっていただけると思います。

ところで、儲かっているラーメン屋というのは、コモディティの原料で商品を完成させています。コモディティというのは、「十分に市場に浸透していて安定供給され、安価に入手できるもの」をいいます。そこらへんのスーパーとか量販店で売っているような、ごくフツーの材料を安価に仕入れて、神業で加工し、すばらしいラーメンに仕上げて、お客様の満足を得るのです。逆に「超高級ドコドコ産の肉」やら「入手困難なんたら珍味入りの麺」なんていうのを使っていると、安定した仕入れが難しかったり、加工が難しかったりと、客数を増やすことができずに儲けることは極端に難しくなります。

じゃあ、クラウドコンピューティングの原料ってなんでしょう?僕がまず思いつくのは、インターネットです。インターネットというのは、すごいおおざっぱに言うと、ネットワーク機器によってつながれたたくさんのデータセンタと膨大な数のPCの集まりです。データセンタの外には変電装置、冷却装置などがあって、データセンタの中には空調、電源制御、バッテリーなんかの基本設備とラックが並んでいます。最近では、コンテナ型のデータセンタもありますが、具はだいたい同じです。さらにラックの中には、サーバ、ネットワーク機器(スイッチ、ルータ、ファイアウォール、UTPケーブル、光ケーブル)、ストレージなんかが収まっている。他にもちろんソフトウェアも必要でしょう。そういうのを想像します。今まではこれらのものは、そのへんの量販店で売っているものではなかったと思います。でもこれからは、こんなのが具になるんじゃないかと思っています。




まあさすがに全部画面がついててもアレなんで、形としてはこんなのかもしれません。




学生時代を思い出しますね!

そんなことを言っても、客数はせいぜい60億人ぐらいが限界じゃないか、という人もいるかも知れません。クラウドコンピューティングの客は、人だけじゃないんです。一番大きな客は、たぶんセンサーだと思います。この分野は、センサーネットワーク(Sensor Network)やモノのインターネット(Internet of Things; IoT)などと呼ばれています。中国の无锡(WuXi)という街では、センサーネットワークというキーワードで集まった企業集団が、着々と研究を進めているそうです。

もしご興味があれば。
http://www.nacsa.com/archives/files/wuxi_event_20100526.pdf

あーやばい、一風堂のラーメンが食べたい。白丸バリカタで。

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